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株式会社 フロム・ザ・ストリート 代表取締役 金井 真澄さん
プロフィール
金井真澄

大学卒業後、三和銀行に入行。九十五年にセントルイスのワシントン大学に留学し、MBA取得。ロスアンゼルス勤務を経て2000年に帰国。その後UFJキャピタルにて、ベンチャー投資のキャピタリストとして活躍。2005年退社し、起業。日本初のプロストリートバスケリーグ「LEGEND」を創設。今年一月に「LEGEND」の運営を株式会社レジェンド・エンターテイメントに移管し、現在は「レールに乗らないさまざまな表現者」が活躍できる舞台を創るエージェントとして活躍中。
http://www.fromthestreet.jp/

 

ベンチャー企業として、社会に新しい風を

LEGENDは、GYAOとYahoo動画のスポーツ部門で共に一位を獲得されたそうですね。

金 井: おかげさまでこのリーグは多くの固定ファンに支えられ、先日シーズン6が終了したところです。シーズン最後のイベントでは、LEGENDを発想するきっかけともなった人気漫画「スラムダンク」と協働するまでになりました。起業する際には分かりやすい旗印でしたが、これはこれで形になり、会社のコンセプトと相容れない部分もでてきたので、思い切って切り離すことにしました。

相容れないとは?

金 井: 会社が目指すのは、「レールに乗らない表現者」をエージェントすること。なぜなら世の中に、もっと物差しを増やしたいからです。メジャーになれる力があるのにメディアに注目されないが故に本来の輝きを放てない、そんな多くの才能に活躍の場を創りたい。さらにそうした才能に触れることで、少しでも多くの人に、社会に敷かれたレールから外れる冒険の勇気を持って欲しいと思います。そんな方向性に対してLEGENDは、バスケ界に根付いて、ある意味ひとつのレールに近い存在になった。そこで私はこれを強く大きくすることは他に任せ、自らは再びレールから外れることを選んだのです。

社会人のスタートは銀行ですね。

金 井: 事業の成長を自在に操るプロになりたかった。しかし入社がバブル崩壊直後で、国内では望んでいる経験が積めそうにないことから、社内の留学制度でアメリカへ行きました。卒業後はシリコンバレーのキャピタリストとふれあいながら、米国企業への融資を経験。帰国後は、M&Aや新規事業立ち上げにかかわり、目指していたキャピタリストにもなれました。

起業しようとしたきっかけは?

金 井: きっかけの一つは、アメリカにいた間、ストリートでバスケと出会いました。街角で勝手にやっているのですが、みんな真剣勝負。寄せ集めチームですが、勝てば遊び続けられるからです。そこで、私はチームメイトに怒られたことがあります。私にパスをくれたのですが、私はそのままゴール下に切れ込んだ人にパスを通して得点に繋がりました。「ナイスアシスト!」と思った途端、「なんでお前が仕掛けない?お前にボールを託したのに、仕掛けられないならお前とは一緒にやれない」と。

厳しいですね。

金 井: 自信がなく、周囲に遠慮していた私に我慢できなかったのでしょう。ストリートは自己表現しないと楽しめない、ということを教わりました。後に私はLEGEND選手にも、自分を表現することを要求しました、勝つことを自己表現に優先させる選手はここには要らない、体育館でやっていればいいじゃないか、と話したものです。

日本人は不得意なのではないでしょうか。そもそもストリートがない?

金 井: 非常に少ないですね。外でプレイする場はありますが、大抵は仲間で固まっていて、アメリカの様に自己表現で繋がる自由さはほとんどないと思います。もう一つ、きっかけとなったのは、私自身にも子供がいて、子供の友達と遊んだりしますが、目の輝きの鈍さが気になりました。そこで、子供たちの立場になって考えると、面白くないのだろうなと。私の子供のころと違って、空き地がない。受験勉強が低年齢化している。また、凶悪犯罪が多くなり、自由に遊べない。社会が変わったことで、自由さと創造性を活かす場がないのですね。親も子供たちを見やすい尺度で計ってしまう。成績とか、スポーツではサッカーとか。いくつかしか物差しがなくて、たまたまそれが得意な子はいいですが、八割がた負組を生み出すしくみです。僕が子供のころの楽しかった思い出と、アメリカでのストリートの経験、今の子供たちの状況。そのために何かしたい、自分の子供たちにも希望の持てる将来を作りたい、それらが起業のきっかけとなりました。

金融の世界からまったく違う世界での起業ですね。

金 井: 私が金融のキャリアを通じて追求したのは、事業を成長させるプロになることで、多くの時間をベンチャー企業の事業戦略立案に費やしてきました。ベンチャーというのは、世の中で見過ごされているニーズに応えるために、あえてリスクをとって、第一人者=パイオニアとしてあらたな市場を切り開くことです。そういう世界を見てきたので、二番手以降で、立証されたモデルを踏襲する気はありませんでした。「難しいところを狙いますねぇ」とよく言われますけどね(笑)。

勝算はあったのですか?

金 井: もちろんです。大きなニーズを実感できていましたから。子供たちに限らず人々が、自由や創造性を生み出せない状況で、子供たちの目は雲って行くばかり…。そういう社会環境が長続きするわけはないし、実際にこうした環境が変わりつつある兆候は、社会のあちこちに芽生えています。人間は本質的に、こういう硬直的な環境に長期間我慢するようにはできていないのでしょう。

LEGENDの運営を他に移して、今後は?

金 井: LEGENDをやっていたことで、バスケ以外にもすばらしい表現者たちに出会ってきました。彼らは私の目からみたら、凄い価値を持っている。でも、世の中には認められていない。ならば私が介在して、私が感じる彼らの魅力をビジネスの言葉に翻訳して企業側に伝えることができれば認められるかもしれない。いろいろな表現者たちをクロスオーバーさせて、これまでなかったイベントをプロデュースしていきたいですね。

手ごたえはありますか?

金 井: 今年の一月に方針転換をして、まずは既にビジネスが成り立っていて、地域にもしっかり根付いている商業施設に企画を持ち込んでいます。スポーツ、あるいは広く自己表現という発想の企画は珍しいらしく、非常に良い反応です。五月から受注が軌道に乗っており、九月には黒字に転換しそうです。

今後の目標を聞かせてください。

金 井: こういう話を聞いたのですが、金魚が入っている水槽の真ん中に透明な板を入れると、最初はわからないから頭をぶつけるのですね。そして何度もあたるうちに、金魚は痛いから反対側に行こうとしなくなる。そのうち板をとっても水槽の半分だけで生活するようになるそうです。いまの日本の状況に似ていると思いませんか。さて、これを元に戻すにはどうしたらよいでしょう?新しい金魚を入れるのです。そうすれば、今まで臆病になっていた魚たちも自由に泳ぎ始める。私はこの新しい金魚を次々世の中に紹介する、そういう役割を果たしていけたらと思っています。彼らを見て子供たちが何かを感じて、自分なりの花を咲かせることができるよう、メッセージを伝えていきたい。ニーズがあって、ニーズを満たすから価値が生まれ、利益が出る。やっていることは間違っていないと確信しているので、それを愚直にやっていければと思っています。
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